災害に立ち向かうデザイン:日本の挑戦はまだまだ続く

2024.01.19

デザイン全般
災害に立ち向かうデザイン:日本の挑戦はまだまだ続く

北海道旭川市のデザイン会社、ドリームクリエイトです。

私たちの国、日本は美しい自然に恵まれていますが、同時に多くの自然災害にも直面しています。最近の能登半島地震は、私たちに改めて自然の力の大きさと、それに対する備えの重要性を思い起こさせました。この地震により被災されたすべての方々に、心からのお見舞いを申し上げます。そして、これからの回復と復興に向けて、できる範囲でお手伝いできればと考えております。

この記事では、「災害対応とデザイン」というテーマを通じて、私たちが直面する自然災害にどのように備え、対応することができるかを考えてみます。災害対応デザインとは、地震や津波などの災害が起こった時、私たちが安全で快適に過ごせるように考えられた建物や施設のこと。これは、ただの建築やデザインを超え、私たちの生命と暮らしを守るための重要な取り組みです。

もしも災害が起きたときに避難できる安全な場所、一時的にでも快適に過ごせる仮設住宅、そして災害について学び、予防するための教育プログラムが必要です。これらはすべて、計画されたデザインによって実現されます。実際の事例を挙げながら、災害対応デザインがどのように私たちの生活を支え、災害から私たちを守るかをご紹介します。

日本で災害リスクがない地域はほとんどありません。災害は予測不可能ですが、準備はできます。そして、その準備の一部としてのデザインの役割を深く理解することは、私たち全員にとって非常に重要です。この記事を通じて、どのようにしてデザインが私たちの安全と快適性を高め、災害時におけるリスクを軽減するか考えていただければ幸いです。


 

■災害時の緊急避難所のデザイン

もしもの災害時、私たちの安全な避難場所となるのが緊急避難所です。学校などの既存施設が使用されることも多いですが、避難所となり得ることを考慮してデザインされた建物も多いのです。避難所のデザインは、私たちが災害から身を守るために非常に重要な役割を果たします。ここでは、避難所がどのようにしたら私たちの安全と快適性を確保するかについて考えてみましょう。

・快適性の確保

快適性とは、避難所で過ごす際に、できるだけ普段の生活に近い環境を提供することを意味します。災害時はストレスが多いため、少しでもリラックスできる空間が必要です。例えば、避難所には、座るための十分な椅子やベンチが用意されています。これにより、長時間立っている必要がなく、体を休めることができます。また、寝るための場所も、床が硬すぎず、暖かく保つことができるように工夫されています。これにより、避難者は安心して休息を取ることができます。

・プライバシーの尊重

避難所では多くの人が一緒に時間を過ごすため、プライバシーが失われがちです。しかし、個々人のプライバシーを尊重することも重要です。これを実現するために、避難所には仕切りやカーテンが設置されている場合があります。これにより、避難者は他人の目を気にせず、自分のスペースでリラックスすることができます。特に、着替える時や寝る時など、個人的な時間にはこのようなプライバシーが特に重要です。また、家族や小さな子ども、お年寄りのいる避難者に対しては、特別な配慮が必要です。家族が一緒に過ごせるスペースや、子どもの遊び場、高齢者のための静かなエリアなどが、これに当たります。これらの工夫により、すべての避難者が、できるだけ通常の生活に近い形で避難所での時間を過ごすことが可能になります。

・総合的な配慮

快適性とプライバシーの確保は、避難所での生活において、ただの「快適さ」を提供するだけではありません。これらは、避難者の心理的なストレスを軽減し、災害のトラウマから回復する過程をサポートする重要な要素です。また、プライバシーが守られることで、避難者は尊厳を保ち、他人との良好な関係を維持することができます。

・多機能性:さまざまな用途への対応

災害時には、避難所がただの避難場所を超えて、情報センターや医療施設、食料配布センターとしての役割も果たすことがあります。このために、避難所はいくつかの異なる活動を同時に行えるように設計されています。例えば、広いスペースが必要なときは、壁や仕切りを動かして大きな部屋を作ることができます。また、小さなグループで集まるための小部屋や、個別のカウンセリングを行うためのプライベートなスペースも設けられています。

・柔軟性:状況に応じた変化

避難所の使用状況は、災害の種類や規模、避難する人々の数によって大きく異なります。そのため、避難所は柔軟に変化できるようになっていることが重要です。たとえば、家具や備品は簡単に移動できるものを選び、必要に応じて異なる配置にすることができます。また、仕切りやカーテンを使用して、一つの大きな空間を必要に応じて小さなエリアに分けることも可能です。これにより、避難所は、一時的な集会所から、睡眠エリア、子どもの遊び場、さらには緊急の医療スペースへと迅速に変わることができます。

・日常と非常時の兼用

多くの避難所は、普段は学校の体育館や公共の集会所として使用されています。災害がない時には地域の活動の場として役立ち、緊急時には避難所として機能します。このように、日常と非常時の両方のニーズに対応できるように設計されているのです。これは、避難所の空間を最大限に活用し、コミュニティの中で重要な役割を果たすことを可能にします。

災害時の避難所の多機能性と柔軟性は、避難者のニーズに応じた様々なサービスを提供する上で不可欠です。これにより、避難所はただの一時的な避難場所ではなく、災害からの回復とコミュニティの結束を支える重要な拠点となります。災害に対する準備として、避難所のこれらの特性は、私たち全員にとって非常に重要な意味を持つものです。


 

■仮設住宅のデザイン革新

災害後、家を失った人々が一時的に住む場所として仮設住宅が用意されます。仮設住宅のデザインは、快適で安全な暮らしを提供するために、近年大きく進化しています。ここでは、どのような革新が仮設住宅のデザインに取り入れられているのかを見ていきます。

・居心地の良い空間

仮設住宅は、災害からの回復期間中、人々の「家」となります。そのため、ただ屋根があるだけではなく、住む人が心地良く感じる空間であることが重要です。これを実現するために、仮設住宅の内部は明るく、風通しの良いデザインが採用されています。また、家具や内装は、シンプルで使いやすいものが選ばれ、一時的な住居でも「家」の温かみを感じられるよう工夫されています。

・効率的かつ快適な設備

仮設住宅では、限られた空間を最大限に活用することが求められます。効率的な収納スペースや、狭い場所でも快適に使えるキッチンやバスルームなどの設備が備えられています。また、断熱材や二重窓などを使用して、冷暖房の効率を高め、居住者が一年中快適に過ごせるように配慮されています。

・環境に配慮した素材の使用

仮設住宅の建設では、環境に配慮した素材の使用が重視されています。例えば、持続可能な木材の利用や、リサイクル可能な建材の選択などが行われています。これにより、仮設住宅は環境への影響を減らしながら、災害からの回復を支援する役割を果たします。

・コミュニティの形成を促すデザイン

仮設住宅のデザインにおいては、個々の住居だけでなく、コミュニティの形成を促す空間作りも重要です。小さな庭や共有スペース、子どもが遊べるエリアなどが設けられ、住民同士が交流しやすい環境を作り出しています。このような共有スペースは、災害後の精神的な回復を助け、隣人とのつながりを育む場となります。

・災害特有のニーズへの対応

災害によって異なるニーズが生まれることを考慮し、仮設住宅のデザインは柔軟に対応可能です。例えば、高齢者や障害を持つ方々向けにバリアフリーの設計が施された住宅もあります。また、災害の種類に応じて、防水性や耐震性を高めるなど、安全性にも特に配慮されています。

仮設住宅のデザイン革新は、災害からの回復期間中、人々が安全で快適に過ごせるようサポートします。ただ一時的な避難場所ではなく、新たな生活の始まりを支える「家」としての役割を果たすことを目指しています。災害による困難な状況の中でも、人々の尊厳とコミュニティの絆を保ち続けるための重要なステップとなるのです。


 

■災害予防教育とデザイン

災害予防教育は、災害のリスクを減らし、より安全なコミュニティを築くために非常に重要です。デザインがこの教育プロセスにどのように貢献するかご紹介します。

・分かりやすい情報の提供

災害予防教育において最も重要なのは、情報を分かりやすく伝えることです。ここでのデザインは、複雑な災害関連情報をシンプルで直感的に理解できる形に変換します。例えば、津波の避難経路や地震発生時の行動指針を示す図やマップは、言葉だけの説明よりもずっと理解しやすいです。色やアイコンを使ったビジュアルは、大人から子どもまで幅広い年齢層に情報を伝える効果的な手段です。

・インタラクティブな学習体験

デザインは教育をよりエンゲージメントの高いものにします。インタラクティブな展示やアプリケーションを使って、人々が実際に災害シミュレーションに参加したり、緊急時の適切な対応を学んだりできます。ゲームやクイズ形式で提供される情報は、特に子どもたちにとって魅力的で、学びやすい方法です。

・実際の環境での演習

災害時の状況をできるだけリアルに再現したトレーニング環境を作ることも、デザインの重要な役割です。避難訓練用の施設や、災害発生時の状況を模した教育プログラムは、実際の災害に直面したときの準備と自信を高めます。たとえば、地震体験車や津波シミュレーション施設は、実際の災害の感覚を体験させ、適切な行動をとるための訓練になります。

・コミュニティへの情報伝達

災害予防教育の重要な部分は、コミュニティ全体に情報を広めることです。公共の場所に設置される教育用のポスターや、地域イベントで配布されるリーフレットなどのデザインは、地域住民が災害に備えるための知識を得るのに役立ちます。これらの教材は、視覚的に引き付けるデザインでありながら、必要な情報を明確に伝える必要があります。

・テクノロジーを活用した学習ツール

最新のテクノロジーを活用したデザインは、災害予防教育をさらに進化させます。例えば、仮想現実(VR)を使った災害体験は、実際の状況を非常にリアルに再現でき、参加者に深い印象を残します。これにより、災害時の適切な行動を身につけるのに役立ちます。

災害予防教育とデザインの組み合わせによって、私たちは災害への備えをより効果的に行うことができます。デザインは情報を分かりやすく伝え、実際の災害状況を体験させ、コミュニティに重要な知識を広める手段となります。これにより、一人ひとりが災害時に冷静かつ適切に行動できるようになり、より安全な社会を築くことができるのです。


 

■実際の災害対応デザイン事例の紹介

日本では、災害に強いまちづくりに関する様々な革新的なデザイン事例があります。以下にその具体的な例をいくつか紹介します。

・東京都墨田区の向島地域における防災まちづくり

東京都墨田区の向島地域では、地元の組織「一寺言問を災害に強い町にする会」が設立され、行政と連携して防災広場「路地尊」の設置などを行っています。この「路地尊」は、防火用具庫や貯水槽を備え、隣接する家の雨どいから雨水を地下に貯蔵し、日常用水や災害用水として使用できるよう工夫されています。

・世田谷区太子堂における防災小広場の設置

昭和57年に世田谷区太子堂で発足した住民主体のまちづくり協議会では、二方向避難を確保するために防災小広場が作られました。これらの広場は住民によって名付けられ、「トンボ広場」「アメンボ広場」といった名前で親しまれ、地域の人々の集いの場として機能しています。

これらの取り組みは、災害に強いまちづくりに向けた日本の努力の一端を示しています。災害時だけでなく、日常生活においても地域コミュニティを強化し、住民が積極的に参加し管理することで、より安全で快適な生活環境を実現しています。こうした事例は、単に災害から身を守るだけでなく、地域の結束を深め、文化や伝統を育む場としても機能しています。

災害に対する備えは、ハード面(物理的な設備や構造)だけでなく、ソフト面(地域社会の協力や組織化)の強化も含めて行われるべきです。地域住民が主体となり、災害対策を行うことで、防災意識が高まり、災害時の協力体制も強化されます。また、こうした地域主導の活動は、防災教育の一環として、次世代に災害への意識を引き継ぐ役割も果たしています。

これらの日本の事例は、災害対応のためのデザインとまちづくりの取り組みが、どのようにして地域社会の安全と福祉に貢献しているかを示しています。災害に対する備えと対応策を地域コミュニティと連携して進めることで、より効果的で持続可能な防災体制を構築することができるのです。

いかがでしたか?

災害対応デザインの数々は、日本各地での具体的な事例として生き生きとした形で現れています。これらのデザインは、単に美的な価値や機能性を提供する以上のものです。それらは、私たちが直面する自然災害のリスクに対して、より強く、より賢く立ち向かうための手段となっています。

東京の路地尊や世田谷区の防災小広場のようなプロジェクトは、災害時の安全な避難場所を提供するだけでなく、地域コミュニティの絆を深める重要な役割を果たしています。これらの取り組みから、私たちは災害対応デザインが持つ真の力を見ることができます。それは、災害の危険に備え、人々の生命と財産を守ると同時に、日常生活の質を高め、地域社会の連携と協力を促進する力です。

最後に、災害に強いコミュニティを築くためには、私たち一人ひとりの意識と行動が不可欠です。デザインの力を活用し、自助、共助、公助の精神を持って、私たちの住む地域をより安全で快適な場所にすることが重要です。これからも、私たちは災害対応デザインの進化とその地域社会への影響を見守り、積極的に参加し続ける必要があります。

災害対応デザインの旅はまだ始まったばかりですが、この記事が皆さんに災害への備えと対応策について考え、行動するきっかけを提供できたなら幸いです。安全で持続可能な未来を築くために、私たちは一緒に学び、成長し、行動していきましょう。