IKEAのカタログデザインの秘密:世界で最も印刷された出版物
2023.09.07
DTPデザイン北海道旭川市のデザイン会社、ドリームクリエイトです。
多くの人達が、家具やインテリアを決めるためにカタログをめくったことがあると思います。その紙の感覚から始まり、鮮やかな写真、理想のインテリアの提案やライフスタイルは、この商品を購入したら、、、という想像をかき立てます。
みなさんもよくご存知の「IKEA(イケア)」は、シンプルで機能的なデザインが特徴の北欧スウェーデンのメーカーです。このIKEAで発行していた紙のカタログは、ただの商品リストを超えて世界で最も印刷される出版物としての地位を築き上げました。1951年の初版発行から現在まで、このカタログはどのようにして世界中の家庭に浸透し、私たちのライフスタイルやインテリアの選び方に影響を与えてきたのでしょうか。
この記事では、IKEAのカタログの歴史、デザイン、そしてその背後にあるストーリーをご紹介します。
IKEAのカタログの歴史
IKEAは、1943年にスウェーデンのイングヴァール・カンプラードによって創業されました。当初は、ペンや時計、宝石箱などの小物を郵便で販売するメールオーダー事業としてスタートしました。しかし、ビジネスの拡大とともに、カンプラードは家具の販売を開始することを決意します。
1951年、IKEAの家具のコレクションを紹介するための最初のカタログが発行されました。このカタログは、スウェーデン国内の家庭に無料で配布され、大きな反響を呼びました。初版のカタログは、シンプルながらも機能的なデザインの家具を中心に、スウェーデンのモダンなライフスタイルを提案していました。
興味深いことに、創業者のカンプラード自身が、この初版のカタログの写真撮影に関与していたと言われています。彼は、自らのビジョンを正確に伝えるため、写真の構図や照明、家具の配置にまでこだわったと伝えられています。このこだわりは、IKEAのブランドイメージやカタログの品質を高める要因となりました。
IKEA 1951年発行のカタログの内容
この初版のカタログの成功を受けて、IKEAは年間のカタログ発行を継続。以来、ずっと続く伝統となりました。
IKEAの驚異的なカタログ発行部数
IKEAのカタログは、その発行開始から数十年にわたり、増加し続ける人気を見せました。特に、2000年代から2010年代初頭にかけて、その印刷数は急激に増加。2010年代のピーク時には、驚異的な年間約2億部以上が印刷されていました。この数値は、多くの国々で無料で配布されるIKEAのカタログの普及度を示しています。もちろん、各国に合わせてローカライズされ、商品展開されていたのは言うまでもありません。
発行部数のピークを迎えた2016年のIKEAのカタログ
この印刷数は、多くのベストセラー書籍の年間印刷数を大きく上回るものでした。例えば聖書は、世界中で非常に多く印刷・配布されていることで知られていますが、年間の印刷数はIKEAのカタログに匹敵するものではありませんでした。また、J.K.ローリングの「ハリー・ポッターシリーズ」も、発売されるたびに数百万部が印刷されるベストセラーでしたが、年間の累計印刷数ではIKEAのカタログに及びません。
カタログというよりライフスタイルの提案のような内容
この驚異的な印刷数は、IKEAのカタログが単なる商品カタログを超え、世界中の多くの人々にとってのライフスタイルガイドやインテリアのインスピレーションソースとしての役割を果たしていたことを示しています。多くの家庭で、新しいカタログが届くことは、新しいインテリアのアイディアを探す楽しみとして期待されていました。
圧倒的なデザインとコンテンツ
IKEAのカタログは、単なる商品のリストを超えた、独特のデザインとコンテンツで知られています。そのページをめくるたびに、読者はIKEAの家具やインテリアアイテムを使用した、様々な生活シーンやインテリアの提案に出会います。これは、単に商品を紹介するだけでなく、それをどのように生活の中で活用できるかを具体的に示すことで、読者の購買意欲を刺激する狙いがあります。
生活の中での活用イメージが湧いた
また、カタログ内の各ページは、特定のテーマやライフスタイルに基づいて構成されています。例えば、小さなアパートメント向けのスペース効率の良いインテリアや、家族向けのリビングルームの提案など、さまざまな生活シーンがリアルに再現されています。これにより、読者は自分の生活スタイルやニーズに合わせて、具体的なインテリアのアイディアを得ることができます。
カタログを超越した内容は見る人たちをわくわくさせた
さらに、IKEAは全世界で事業を展開しているため、カタログの内容も各国や地域の文化、習慣、ライフスタイルに合わせてローカライズされています。例えば、アジアの一部地域では、伝統的な住居の構造や家族の生活スタイルを反映したインテリアの提案がなされています。また、北欧のカタログでは、長い冬の夜を暖かく過ごすためのインテリアや照明のアイディアが紹介されています。このように、IKEAはグローバルなブランドでありながら、各地域のニーズや文化を尊重し、それを反映したカタログのデザインとコンテンツを提供しています。
環境への取り組み
IKEAは、持続可能性と環境保護を企業の核として位置づけています。この姿勢は、カタログの印刷にも反映されています。年間2億部以上もの印刷数を誇るカタログの製造は、環境への大きな影響を及ぼす可能性があります。そのため、IKEAは以下のような取り組みを行って、その影響を最小限に抑える努力をしてきました。
FSC認証の紙の使用
IKEAは、カタログの印刷に使用する紙について、FSC(Forest Stewardship Council)認証を取得したものを使用していました。FSC認証は、持続可能な森林管理を行っていることを示す国際的な認証制度です。これにより、森林の生態系や生物多様性の保護、そして地域社会の権利の尊重が確保されています。
リサイクル紙の使用
IKEAは、カタログの印刷に使用する紙の一部として、リサイクル紙を使用しています。これにより、新たな木材の伐採を減少させるとともに、廃棄物の再利用を促進しています。
環境に優しいインクの使用
カタログの印刷に使用されるインクも、環境に配慮したものが選ばれています。有害な化学物質を含まない、水ベースのインクや植物ベースのインクが使用されています。
デジタルカタログの推進
紙のカタログの印刷数を減少させるため、IKEAはデジタル版のカタログの提供を強化してきました。オンラインやアプリを通じて、紙を使用せずにカタログの内容を閲覧することができます。
これらの取り組みを通じて、IKEAは環境への影響を考慮しながら、カタログを持続可能な方法で提供しています。
デジタル時代の変革、紙のカタログの終焉
21世紀に入ると、デジタル技術の進化とインターネットの普及は、消費者の購買行動や情報収集の方法を大きく変えました。この変革の中で、IKEAもその戦略を進化させてきました。
オンラインカタログ
デジタル化が進む中、IKEAはウェブサイト上でオンライン版のカタログを提供し始めました。これにより、消費者はいつでもどこでも、PCやスマートフォンを通じて最新の商品情報やインテリアのアイディアを閲覧することができるようになりました。
アプリの導入
IKEAは、カタログ閲覧をより便利にするための専用アプリをリリースしました。このアプリを使用すると、商品の詳細情報や実際の家具の配置をAR(拡張現実)技術を使用してシミュレーションすることも可能です。
紙のカタログの終焉
2020年、IKEAは70年にわたる歴史を持つ紙のカタログの発行を終了するという衝撃的な発表をしました。この決定は、デジタルメディアの普及や環境への配慮、そして消費者の行動の変化を背景にしています。
2021年、最後の紙のカタログが発行された
紙のカタログの遺産
たとえ紙のカタログの発行が終了したとしても、その影響や遺産は今後も続くでしょう。多くの人々にとって、IKEAのカタログはインテリアのインスピレーションの源として、また家族とのコミュニケーションのツールとしての役割を果たしてきました。その歴史や文化的な価値は、デジタルメディアに移行した現代でも引き続き語り継がれるでしょう。
いかがでしたか?
IKEAのカタログは、単なる家具のカタログを超えて、世界中の多くの人々にとってのインテリアやライフスタイルのガイドブックとしての役割を果たしてきました。1951年の初版発行から現在まで、このカタログはデザイン、内容、そして環境への取り組みを通じて、常に進化し続けてきました。デジタル時代の変革の中で、紙のカタログの発行は終了しましたが、その影響や遺産は今後も続くでしょう。
実は、この素晴らしい紙のカタログのすべて(もちろん、過去のものもすべて!)を「IKEA MUSEUM」で見ることができるので、興味のあるかたはぜひ1度訪れてみてください。デザインの教科書としても非常にすばらしく、またマーケティングやブランディングのお手本としても活用できます。
このIKEAのカタログは、70年にわたる歴史の中で、私たちの生活やインテリアの選び方に大きな影響を与えてきました。そのページをめくることで、新しいインテリアのアイディアや家族との楽しい時間を過ごすきっかけを提供してくれました。紙のカタログの発行は終わりましたが、その魅力や価値は、デジタルメディアや私たちの心の中で、これからも輝き続けるでしょう。